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東京地方裁判所 昭和37年(行)43号 判決 1965年6月30日

東京都足立区梅田町一五二〇番地

原告

東京観光株式会社

右代表者代表取締役

平沼栄

右訴訟代理人弁護士

広川捨吉

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

谷川宏

右指定代理人検事

山田二郎

法務事務官

中田一男

大蔵事務官

三輪正雄

藤原博成

右当事者間の昭和三七年(行)第四三号更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三七年三月三〇日付でした原告の昭和三二年度分の法人税に関する審査決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告会社はタクシー事業を目的として、昭和二六年四月設立したものであるが、昭和三三年二月訴外足立税務署長に対し、昭和三二年度分法人税に関し次表のとおり、課税所得金額以下をいずれも零として、確定申告したところ、同税務署長は、昭和三五年七月二〇日同表のとおり更正処分をし、その頃原告に通知した。そこで、原告は同年八月二二日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は、昭和三七年三月三〇日同表のとおり審査請求を棄却し、同年四月二日原告に通知した。

<省略>

二、被告は、原告会社が昭和三二年度中に訴外コンドルタクシー株式会社(以下、コンドルタクシーという。)及び同小田急交通株式会社(以下、小田急交通という。)に対し、所有車輛中一五台分のナンバー権を譲渡し、その利益金二、六〇〇万円があつたとして更正処分を維持し、審査の請求を棄却した。しかし、原告会社において、当時所有していた二五台の車輛中一五台については、他の同業会社の多くがそうであつたように、営業免許を受けるための便宜上会社名義で登録したに過ぎず実質上は、運転者個人がその車輛の所有者であり、会社に対しては単に一カ月二万ないし三万円の名義料を支払うに過ぎず、営業収入はすべて個人に帰属していた。すなわち、右一五台については、原告会社は、単に名義貸をするという業態をとつていたものであるが、その頃、監督官庁の注意もあり、これを整理解消する必要にせまられたので、昭和三二年度中に名義貸分の訴外大沼照喜外一一名の所有する一五台をコンドルタクシーへ五台、小田急交通へ一〇台売却した。売却代金は名目上金三、三〇〇万円(コンドルタクシー関係金一、二〇〇万円、小田急関係金二、一〇〇万円)であるが、仲介料金二〇〇万円、原告会社の退職運転手の慰労金一〇〇万円を支出したので、実質は金三、〇〇〇万円である。そして、右金三、〇〇〇万円のうちコンドルタクシーへ売却分の仲介料金二三万円を支払い、残額のうち金一、五二九万一〇〇円を訴外キングタクシー企業組合(以下、キングタクシーという。)所有の車輛一五台を買収するため、前渡金として支出したところ、これが失敗に終り前渡金の返遺を受けることとなつたが、内金七〇〇万円は、遂に回収不能となり、結局売却代金手取額金二、九七七万円から右回収不能分を除いて、残り金二、二七七万円が前記大沼照喜外一一名に分配されたものである。右の次第で原告会社は、実質上の所有者である右訴外人らから車輛一五台を買い上げて、買上げ代金と同値でこれをコンドルタクシー及び小田急交通に譲渡したに過ぎないから、原告会社に売却益は発生しないものといわねばならない。

従つて、原告会社に右の車輛一五台を売却した利益があると認定した被告の審査決定は違法というべきである。

以上のとおり述べ、証拠として、甲第一ないし第一六号証を提出し、乙第五ないし第七号証の原本の存在及び成立、その余の乙各号証の成立は、いずれも認めると述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因第一項の事実及び第二項の事実中、被告が原告主張のような理由で原告の審査の請求を棄却したこと、原告が車輛一五台をコンドルタクシー及び小田急交通に売却したことは認めるが、その余の事実は否認すると述べ、被告の主張として、次のとおり述べた。

一、原告は、昭和三三年二月二八日足立税務署長に対し、原告の昭和三二年度分の法人税について、所得零として確定申告をしたので、係官が調査したところ、その所有車輛二五台中一五台を期中にコンドルタクシー及び小田急交通に総額金三、三〇〇万円(車輛代金七〇〇万円、ナンバー権代金二、六〇〇万円)で売却したことが判明した。

原告は、係争事業年度の決算書にその一部である金七〇〇万円だけを、訴外キングタクシー所属の車輛一五台を購入する目的で支出したものとして、仮払金に計上したが、残りの金二、六〇〇万円については何らの記載をしなかつた。そこで、同署長はこれをキングタクシーに対するナンバー権買収のための仮払金(前払金計上減)と認定して益金に加算し前表のように更正したものである。

二、原告は、右の処分を不服として審査の請求をしたが、その理由は更正処分で仮払金として認定された金二、六〇〇万円はキングタクシーに対し、その所有車輛一五台分のナンバー権の買収費として支出したことは認めるが、右車輛の譲受けは不能となり、支出した金二、六〇〇万円の回収も不能となつたので、収支が差引零となり、所得を零としてした申告に誤りはないというのであつた。しかし、被告の調査によると、右金二、六〇〇万円をキングタクシーに支出したこと、及び同タクシーがこれを受け入れたことを裏付ける証拠は何一つ発見できなかつた。そこで、被告は、これを社長個人に対する貸付金として認定して原処分を維持したものである。

なお、その後の調査によれば、原告は、本件係争年度中に、その所有車輛のうち一〇台を小田急交通に金二、一〇〇万円で五台をコンドルタクシーに金一、二二五万円(金一、二〇〇万円ではない。)でそれぞれ売却し、売却代金は、合計金三、三二五万円であることが判明し、原告は、結局、金二、六二五万円の売却利益の計上を脱漏していたこととなるが、税務署長の更正処分は右売上金額の範囲内で金二、六〇〇万円を益金に加算したものであるから適法なものであり、当時の法人税法第四三条(昭和三七年法律第六七号による改正前のもの)に基づいてした過少申告加算税の課税処分も適法であり、これらの原処分を維持した本件審査決定も同様適法である。

以上のとおり述べ、証拠として、乙第一ないし第一一号証(ただし乙第五ないし第七号証は写)を提出し、甲各号証の成立はいずれも不知と述べた。

理由

本訴の主たる争点は、原告の本件係争年度中に、コンドルタクシー及び小田急交通に売却した合計一五台の車輛の売却益が原告会社に帰属するかどうかの点である。ところで、成立に争いのない乙第一(原告と小田急交通の自動車売買契約書)、第二(原告とコンドルタクシーの自動車譲渡契約書)、第八(原告のコンドルタクシーに対する金五〇〇万円の領収書)、第九(コンドルタクシーの仕訳日記帳)、第一〇(原告のコンドルタクシーに対する金二五〇万円の領収書)、第一一(原告のコンドルタクシーに対する金二〇〇万円の領収書)号証の各記載によると、右一五台の車輛(及びいわゆるナンバー権)の売主は、いずれも原告と認められ、右のような各書面(乙第九号証を除く)に売主が原告と表示されている以上、他に特段の証拠のない限り、右売買における売買代金は原告に帰属するものと認定するほかないというべきところ、原告提出にかかる甲第一ないし第一二号証は、いずれも、その成立の真正について立証がないばかりでなく、甲第四号証(高沢清の領収証)は、作成日付の点を除いてその記載内容が同一である。原本の存在と成立に争いのない乙第六号証と対比して、甲第八号証(橋本正一の領収書)は、同様作成日付の点を除いてその記載内容が同一である。原本の存在と成立に争いのない乙第五号証と対比して、それぞれの成立の真正に疑問があるし、その余の右甲各号証も、弁論の全趣旨によると成立の真正が疑問であり、他に、原告の売却した一五台の車輛が原告以外の者に属したり、その売却益を原告以外の個人に配分交付した証拠もないのであるから、被告が一五台の車輛の売却益を原告に帰属するものと認定したことは合理的であつて、その認定を違法ということはできない。

そして、前掲乙第一、第二号証、同第八ないし第一一号証、成立に争いのない乙第三、第四号証を総合すると、右一五台の車輛の売却代金は金三、三二五万円であると認められ、原告が係争事業年度の決算書にうち金七〇〇万円のみを仮払金として計上したに過ぎないことは、原告の明らかに争わないところであるから、残額金二、六二五万円の範囲内で金二、六〇〇万円を益金に加算した更正処分は適法であり、これを維持した本件審査決定も適法といわねばならない。

原告は、右売却益のうち合計金二三万円は、仲介料、金一〇〇万円は退職運転手の慰労金に充当した旨主張するが、原告会社において経理上そのような処理がなされている場合ならばともかく、何らの会計帳簿のそなえつけ、記帳もない(この点は、口頭弁論の全趣旨により認めることができる。)のであるから、他に、証拠がない以上、右のような支出がなかつたと課税官庁で認定することもやむをないというべきところ、甲第一三号証については、その成立を認めるに足りる証拠がなく他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はないのであるから、この点の被告の認定も合理性を欠ぐということはできない。

そして、金二、六〇〇万円が原告の係争年度の益金に加算された場合、その税額、過少申告加算税が前記表のとおりとなることは、原告の明らかに争わないところであるから、本件審査決定は適法であつて、原告の本訴請求は理由がない。

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訴費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石健三 裁判官 浜秀和 裁判官町田顕は転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 白石健三)

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